賃貸マンションやアパートの経営は、誰にも向いているわけではありません。
特に古くなると修繕やメンテナンス箇所も増えて、片手間ではやりにくくなってきます。
今回は、相続した一棟賃貸マンションの運営に苦労したけれど、売却をしてスッキリした事例をご紹介します。
収益物件取得のきっかけは相続:大阪府河内長野市のSさんの事例
大阪府河内長野市にお住まいのSさんは、お父様がお亡くなりになられて大阪府富田林市にある一棟賃貸マンションを相続しました。
Sさんの実家は、兼業農家でした。お父様が昼はサラリーマンをしながら、休日に農業をしてました。平日は、お母様が畑の世話をしていました。しかし、体力的にキツいと畑を潰して、一棟賃貸マンションを建てたのが30年前のことでした。駅から比較的近かったこともあり、空いても次の入居者がすぐに決まる人気物件だったようです。Sさんのお父さんはマンション経営が余程気に入ったのか、定年後は毎日掃除をしたり花壇を作って花を植えたりしていたようです。
しかし、冬に風邪をこじらして入院してそのまま亡くなられたとのこと。急遽、実家の隣町に住んでいた長男のSさんが、マンション経営を引き継ぐことになったのです。
マンション経営で次から次へと問題が発覚
急な相続で何からすれば分からない
Sさんは、大阪市内の大手企業に勤めるサラリーマン。不動産とは全く関係のない仕事をしていて、マンション経営はお父様が1人でやっていたので、不動産のことは全く分かりません。お父様が急にお亡くなりになったので、何も聞いてません。賃貸マンションに関する書類や家賃を振り込んでもらっている通帳などはありましたが、具体的に何をすればよいのかが全く分からなかったとのことです。
さすがに自分ではどうしようもないと思ったSさんは、地元の友人を通じて物件の近くにある不動産会社を紹介してもらい、そこに管理を依頼することにしました。管理会社の人と2人で、残っている賃貸契約書やいろいろな資料を整理し、新しい管理体制がスタートしました。
しかし、そう簡単に任せっぱなしというわけにはいきませんでした。
契約書の家賃と振り込まれている家賃が違う?!
まず、賃貸契約書に書かれている家賃と実際に振り込まれている家賃が、違う金額の部屋がいくつかありました。
入居者に確認すると、口頭で値引きをお願いしたら了解してもらったとのこと。過去の通帳の金額を遡ると、数年前から確かに安い賃料が振り込まれていました。こういうことを放置していれば問題になると、管理会社が家賃が契約書と違っている部屋は新たに賃貸契約書を結び直してくれました。
滞納者との交渉・裁判
滞納している部屋もありました。
1〜2ヶ月遅れの部屋は管理会社が交渉して、正常化されました。しかし、1年ほど滞納している部屋がありました。失業して振り込む目処が立たないと、一向に払う気はなさそうでした。管理会社と相談して、その入居者には退去してもらうよう交渉しましたが、結局は裁判になりました。無事に勝訴して退去してもらったのですが、管理会社から弁護士費用の請求が来ました。
結局家賃の回収が、全て正常化するのに半年以上掛かりました。
雨漏りに、オートロックの故障。工事費だけで数百万円
入居者の管理がやっと正常化したと思えば、今度は設備が次々と故障しました。
大雨の日、いくつかの部屋で雨漏りが発生しました。管理会社の担当者と屋上に登ると、屋上防水工事を新築以来一度もしていないことが分かりました。今すぐやらないと、雨漏りが頻発すると言われ、数百万円かけて屋上防水工事を行いました。
工事が終わり、これで当分は安心だと思っていた矢先、今度は玄関のオートロックが動かなくなりました。電気工事業者に点検してもらったところ、30年前の製品で部品が手に入らないので新しく取り替えるしかないと言われました。しばらく放っておいたら、今度は入居者から、オートロックが無いと知らない人が勝手に入ってくるので物騒だとクレームが入りました。悩んだ末に、オートロックを新しくすることにしました。こちらも、数百万円の費用が発生しました。
トラブル続きで熟睡できない
次から次へと、設備の不具合や故障が出てきて出費が嵩みました。
まだ、マンションを建てた時のローンが残っています。出費がこれ以上増えれば、ローンが返せなくなるかもしれません。このままでは、大変なことになる。Sさんは、不安で夜に熟睡することが出来なくなりました。
「こんな物件を残されて本当に迷惑だ」
そのころSさんは、周囲の人によくこんな愚痴をこぼしていました。
相続した一棟マンションの売却を決意
先祖伝来の土地でも売る人が増えている
Sさんは、マンション経営が大変な心の重荷になりました。管理会社に相談すると、これからも修繕や交換が必要そうな設備はいくつもあるようです。周囲に相談すると、「売却したら良いのでは?」と言われました。
Sさんは、売るという発想を全く持っていませんでした。この賃貸マンションが建っている場所は、Sさんの先祖がずっと守ってきた土地です。子供の頃から、この土地をずっと守っていくのが自分の使命だと誰から言われたわけではないのですが、そう思い込んでいました。さらに、Sさんはこんな古い物件が、売れるはずがないと考えていました。やがては、自分で取り壊さなければいけないと思い込んでいたようです。
しかし、不動産に詳しそうな人に聞くと、先祖伝来の土地を守らなきゃという考えは最近はそれほど強くなく、相続した土地を売る人が非常に増えたそうです。また、古い物件でも最近はこのような中古の一棟賃貸マンションに投資をする人が多く、適正な価格なら売るのはそれほど難しくないと言われました。
とりあえず、管理会社にこのマンションを売れないかと相談しました。管理会社は売買をしていないとの事だったので、管理会社の紹介で賃貸マンションなを専門に扱っている不動産会社を紹介してもらいました。
しかし、こんな古い物件が売れるのか?売った後に、色々なクレームが出るのではないか?とSさんの不安は収まりません。設備の不具合も、わかっている事はきちんと告知して売れば、後からトラブルになることはあまりないとのことでした。
しかし、悩んでいる間も、細かい出費が次々と出てきます。この前も、給湯器が故障して新しいものに交換しました。放っておいてはダメだと、Sさんは思い切って売却を決心しました。
売却益も出てホッと一息
不動産会社の査定は、ローンを払ってもかなりの金額が手元に残る計算でした。
不動産会社のアドバイスで、最初は少し高めの価格で売り出すことにしました。ただ、やはり相場より少し高かったようで、最初の価格ではあまり反響がなかったようです。そこで、少し価格を下げると無事に売却先が見つかりました。
買主は、近所のリフォーム会社の社長でした。たまたま近所で、物件を探していたようです。今後、色々と修繕箇所が出てくることが予想されましたが、買主は当然そういうことを織り込み済みでした。リフォーム業者なのでリフォームが原価でできるため、一般の不動産投資家などより競争力があるとのこと。
無事に契約、引渡しが完了し、ローンを完済してもSさんはかなりのまとまった売却益を手に入れました。何よりも嬉しかったのは、もうマンション経営で神経を使う必要が全くなくなったことでした。今までは管理会社から電話があれば、また何かトラブルがあったのか、修繕費が必要になるのかと思いドキッとしましたが、今後はそういうストレスとも無縁となります。
引渡しが完了した夜、Sさんは久しぶりに熟睡出来たようです。
相続した一棟マンションの売却を決意
売却益から税金を引いても、結構な金額が残りました。Sさんは、そのお金で住宅ローンを完済しました。そして、息子さんの大学進学費用も賄うことが出来ました。私生活でのお金の心配が、無くなったのです。住宅ローンが完済でき、息子さんの学費の問題もなくなり、将来の不安も解消しました。
Sさんは先日、久しぶりにマンションの前を通りました。外壁が塗り替えられ、見違えるようになっていました。新しいオーナーさんの元で、マンションも生まれ変わったようです。
「本当に売って良かった」
Sさんは1人そうつぶやきながら、マンションの前を通り過ぎました。