お客様から「収益物件の売り時はいつですか?」と良く聞かれます。
できるだけ高く売りたい、あるいは損をせずに売りたい、と言うのはアパートのオーナーなら誰もが思うところ。特に、一棟賃貸マンションは、金額も大きいので売却のタイミングは多くの方が気にされるようです。
しかし、最適な売却のタイミングを見極めることは、決して簡単なことではありません。市場の動向はもちろん、物件の特性やオーナーの事情など様々な要素が関連してきます。
この記事は、これらの要素を踏まえて最適な売却のタイミングを決定する参考になるよう書きました。収益不動産売却のタイミングを知る参考になれば幸いです。
売却のタイミング その1
デッドクロスになった時
一般的に、デッドクロスとは物件から得られる収益が、その運営にかかる費用を下回る状況を指します。
不動産投資では、「減価償却費+金利+経費」よりも「元金返済」の方が大きくなってしまっている状態のことを言います。これはどういうことかというと、銀行ローンの返済の元金分は経費に算入できません。経費にできるのは、減価償却費と金利、運営などに掛かる経費だけです。
減価償却費と運営の経費はあまり変化しませんが、金利は少しずつ減っていきます。ローンを元利均等返済で借りた場合、最初は返済金額のかなりの割合が金利分です。金利は、経費として算入できます。しかし、返済が進むと支払う金利は徐々に少なくなってきます。そうなると、「減価償却+金利+経費」より「元金返済」の方が大きくなるタイミングが来ます。
これがデッドクロスです。
デッドクロスになったら、どうなるの?
どうなるかというと、帳簿上の利益ほど手元にお金が残っていないという状況になります。帳簿上の利益が出ると当然課税されますので、税金を払えばお金が足りないという状態になります。放っておくと、金利はどんどん減っていくので、キャッシュフローが厳しくなってきますので危険です。
そうなる前に、すぐにでも売却した方が良いでしょう。
売却のタイミング その2
減価償却が取れなくなった時
不動産投資において、理解しなければいけないことの一つに減価償却があります。
減価償却とは、不動産などの資産価値が時間とともに減少することを前提に、その減少分を経費として計上する会計上の処理のことです。建物には、法定耐用年数が定められています。法定耐用年数とは、不動産の経済的に利用可能と見込まれる期間のことで構造によって期間が変わってきます。
・鉄筋コンクリート造(RC造) 47年
・鉄骨造(S造) 34年
・軽量鉄骨造 19~27年(鉄骨の厚さで違う)
・木造 22年
減価償却期間が満了し、建物の減価償却が完了すると、その分を経費として計上できなくなります。当然ながら税金の負担額が上がり、借り入れがまだ残っている場合などはキャッシュフローが逆ザヤになる可能性があります。
そうなると保有を継続すればマイナスが増えるだけになることもあり、そうなる前に売却することをお勧めします。
売却のタイミング その3
築20年くらい経った物件
賃貸マンションもアパートも築20年くらい経過すると、物件のメンテナンスコストが増加し始めます。理由は建物の構造部分や設備が老朽化し、大規模修繕をしたり、設備を更新する必要が出てくるからです。
例えば、建物の関係だと、陸屋根の建物の場合は屋上防水工事を行う必要が出てきます。外壁がくすんで古びた感が出てくれば外壁塗装をする必要が出てきます。足場を組んで外壁塗装をすると規模にもよりますが、1000万円以上の出費が必要な場合があります。
設備の故障なども、これくらいの築年数から頻発するようになります。ガス給湯器など部屋の設備はもちろん、水道の給水ポンプ、オートロック、場合によってはエレベータの機械などが故障して取り替える必要が出てくることもあります。こちらも、数百万円から時には1000万円以上の費用が掛かることがあります。
修理が重なり、手元に利益が残らない
大阪府池田市のEさんは、大阪府箕面市に7階建ての賃貸マンションを保有していました。新築からずっと保有していて、売ることなど考えてもいなかったとのことでした。しかし、築20年を過ぎた頃から色々と不具合が出るようになりました。ある時に雨漏りが発生し、調べると屋上の防水工事をそろそろ行った方が良いとアドバイスされました。数百万円の費用が発生しました。
その支払が終わった頃に、今度はエレベータが故障しました。エレベーターのメンテナンス会社に修理を依頼しましたが、すでに生産が中止になっている品番で交換する部品がもう無いとのこと。7階建てのマンションをエレベーター無しにするわけにも行かず、エレベーターを取り替えることにしました。取り替えに必要な費用約1000万円を工面できず、Eさんは新たに銀行から借り入れを起こしました。
その返済を入れると利益がほとんど残らなくなり、Eさんはその賃貸マンションを売却することにしました。
売却のタイミング その4
相続のタイミングで売却する人も
もし、親から賃貸マンションやアパートを相続して、それを運営したいと思いますか?アパート経営は管理会社にある程度お任せしていたとしても、何かと手間とお金がかかるビジネスです。古くなってくると何かとクレームも増え、その都度走り回る必要が出てきたりします。そういうのが好きで自分に向いているというなら、それは素晴らしいことなので是非続けて行かれるのが良いと思います。
問題は、自分に向いていないと思ったときです。自分が興味がない、向いていないにも関わらず賃貸マンション経営をするのは苦行でしかありません。一番ダメなのは、何もせずにほったらかしにすることです。
興味がなく、全く手を入れなくなっても、その賃貸マンションには入居者が住んでいます。入居者が快適な生活が出来るよう建物を維持していくことは、大家さんの義務です。それをするのが嫌なら売却して現金化してから、そのお金で自分がやりたいことをするのがオススメです。
相続が、発生する前に売るという方法もあります。よくご年配の方から次のような相談があります。「賃貸マンションを持っているが、息子がマンション経営に全く興味がないので元気なうちに売却したい」という感じです。
こういう場合も売却するのが良いと思います。
繰り返しますが、賃貸マンション・アパートの経営には向き不向きがあります。もしあまり興味がないのなら、早いうちに売ったほうが良いです。ほったらかしにして、空室が増えると売却価格はどんどん下がっていきます。
売却のタイミング その5
金利上昇など景気が潮目の時期
金利が上昇しそうな時期は、不動産売却の戦略を再考する重要なシグナルです。
最近の海外事例でも明らかですが、金利が上昇すると不動産価格が下がる事が多いです。金利が上昇すると、返済金額が増加します。そのため、銀行借り入れをして賃貸マンションを保有している場合は、収支が悪化します。そうなると売る方が増えますし、安くしないと収支が回らないので物件価格は下落します。以上の理由から金利が上昇しそうな時は、早い目に物件を売却したほうが良いかもしれません。
金利だけではなく景気の後退期が近づいてると感じたら、早めに売却することも考えたほうが良いでしょう。バブル崩壊やリーマンショックのときもそうでしたが、不動産は価格が一度下がりだしたらあっという間に大幅に下がります。そうなった後で売却しようとしても、安く買い叩かれるだけです。
景気のタイミングを見て、売る時期を逃さないようにしてください。
売却のタイミング その6
5年分のキャッシュフローが売却益で得れる場合
景気の拡大時期は、物件を売却して大きな利益を得ることが可能になります。アベノミクス以降の景気拡大期は保有している物件を売却したり、転売を繰り返して大きな利益を得た人が大勢現れました。
さすがにこういう時期は長くは続きませんが、長期間物件を持っている人は大きな売却益を得れる可能性があります。
誰が最初に言い出したのかはは分かりませんが、不動産投資業界では保有を続けるべきか売却するべきかの判断の目安が、「売却した時の売却益が、保有して5年間に得られるキャッシュフローより多ければ売る、そうでなかったらしばらく保有するのが良い」と言われています。
いくらで売れそうかは、不動産会社に査定依頼を出せば算出することが可能です。それと現在年間に得られているキャッシュフローを比較すれば、売却益を算出することが出来ます。
バリューアップするだけの資金がない
和歌山県岩出市にお住まいのOさんは、和歌山県和歌山市に賃貸マンションを保有していました。建物が古くなってきており、家賃がジリ貧になってきました。しかし、銀行借り入れが残っており、追加で大規模修繕を行ってバリューアップするだけの体力はありませんでした。
試しに、不動産会社にどれくらいの価格で売却できそうか、査定をしてもらいました。すると、現在得られているキャシュフロー5年分を遥かに超える額の利益が出そうだったので、売却することにしました。
結果は、売却に無事成功。Oさんはそのお金で経営していた飲食店のリフォームを行い、こちらも益々繁昌して毎日忙しくも幸せな日々を送っています。
まとめ
一棟不動産の売却は、タイミングが鍵です。
本記事で紹介したように、デッドクロス、減価償却、築年数20年、相続、金利上昇、売却益など、売却のタイミングを見極めるには多角的な分析が必要です。これらの指標を適切に理解し、市場と自身の状況を正確に把握することが大切になってくるのです。
賃貸マンション・アパートの所有者の皆さまが売却の最適なタイミングを見極め、より良い資産運用を実現できるようになることを祈っております。