一棟収益物件(賃貸マンション・アパート)を売却するとき、悪い情報を隠して売却して後から損害賠償請求をされるケースが相次いでいます。
売却が終わってから、長々とクレーム対応、時には裁判沙汰になるのは嫌なものです。殆どの方は裁判など一生にそう何度も経験していないと思いますが、何回やっても嫌なものです。
今回ご紹介する事例は売主の判断ミスで、後から損害賠償を請求され、売却した利益が吹き飛んだ大家さんの事例です。
反面教師にしてこうならないように気をつけてください。
不労所得を目指して
大阪市生野区にお住まいのTさんは、大阪市東成区で一棟賃貸マンションを所有していました。Tさんは、医師で10年ほど前に知人に誘われ不動産投資セミナーに参加して、不動産に関心を持ったと言います。
収益不動産を取り扱っている不動産会社に相談に行くと、この東成区の一棟賃貸マンションを紹介されたと言います。その不動産会社に紹介された銀行に行くと、すぐに融資承認が出ました。満額貸してくれるようです。不動産会社の担当から「さすがお医者さんですね。こんな良い条件で借りれる人は殆どいませんよ」とおだてられ、よくわからないまま購入しました。
運営は、管理会社に任せっぱなしでした。それでもしらばらくは、家賃収入からローンの返済や管理費などを引いてもお金が残ります。「こういうのを不労所得というのか」。Tさんは満足していました。
修繕費がかさむので売却を決意
しかし、所有して数年経つと、色々不具合が出てきました。給湯器が壊れた、水道のポンプが壊れたなど次々と不具合が出ます。給湯器が壊れたら1、台新品に交換するのに20万円程かかりました。壊れる時は一度に来るもので、その年は1年で5台も故障しました。
水道ポンプが、壊れた時は50万円ほどしました。一番痛かったのは、オートロックが故障したときです。古いものでもう部品がないと言われ、新しいものに付け替えました。300万円ほどの費用がかかりました。しかし、これだけでは終わりませんでした。
空室が出ても次の入居者が、なかなか決まらなくなりました。管理会社のすすめで、空室が出たら1室150万円以上を掛けてリフォームをするようにしました。リフォームをすれば、確かに次の入居者はすぐに決まりました。しかし、お金が出ていくばかり。
ついに年間の収支は赤字になり、それが数年続きました。
Tさんの苦労は続きます。大雨があった次の日、いくつかの部屋から雨漏りの報告がありました。管理会社からは屋上防水と、外壁の前面塗装を提案されました。見積もりを取ると、1000万円以上必要なことが分かりました。
更に追い打ちを掛けるように、1階の店舗から半年後に退去したいという申し入れがありました。退去すると、預かっていた敷金500万円を返還する必要があります。1階の店舗は家賃も高いので、退去すれば家賃収入も大幅減となります。
このままでは破綻する、危機感を覚えたTさんはマンションを売却することにしました。
仲介会社には告知せず
売却は、10年前の購入時に仲介してもらった会社に依頼しました。現在の状況をヒアリングされたとき、雨漏りの話と1階のテナントが退去する話は仲介会社にはしませんでした。すれば、値切られると思ったからです。Tさんは不動産投資についてそれなりに勉強してましたので、契約書に「現状有姿。契約不適合責任免責」と記載していれば、何かあっても責任追及は逃れることができると考えていました。
空室が多かったので、査定額は思ったほどの金額になりませんでした。しかし、とにかく早く逃げ切ることが先だと判断したTさんは、仲介会社の言う価格で売りに出すことにしました。
しばらくすると、購入希望者が現れました。購入希望者は大手企業に勤務する不動産投資家で、銀行融資も良い条件で承認が出たようです。それで、売買契約をしようということになりました。
契約前に、仲介会社から「不具合や告知事項はありませんか?」と再度聞かれましたが、特に何も無いと答えました。もし1階退去の件や雨漏りについて聞かれても、自分は素人なんで知らぬ存ぜぬで押し通せば良いと思っていました。もちろん契約書に、「現状有姿。契約不適合責任免責」と記載されていることを確認しました。
契約は、無事に完了。1ヶ月後、無事に引き渡しを終えました。Tさんは、これでもうキャッシュフローがマイナスになる不安から解放されたと安堵しました。
クレーム発覚
Tさんの安心は続きませんでした。
新しいオーナーさんは、新しい管理会社と一緒に入居者にオーナーが変わったことを伝えるために挨拶回りをしました。そこで、1階のテナントが退去すること、複数の部屋で雨漏りが発生したにも関わらず放置されてたことが発覚しました。
新しい管理会社が、引き継ぎを受けたTさんが契約していた管理会社に確認したところ、1階テナントの退去通知も、雨漏りも把握していて売主には伝えていたと言われたそうです。
仲介会社からTさんに「どういうことですか?何故言ってくれなかったのですか?」と厳しい口調で電話が掛かってきました。Tさんは「言ってなかったけ?私、素人だから細かいことは覚えていない。契約で現状有姿・契約不適合責任免責って書いてあるんで、そちらで対応してよ」としらばっくれながら逃げ切ろうとしました。
弁護士事務所から内容証明郵便が届いたのは、それからしばらくしてからのことでした。内容証明郵便の内容は、1階テナントの返還保証金500万円と雨漏りの原因となっている屋上や外壁の不具合を修理する費用2000万円の合計2500万円を直ちに支払えというものでした。
ここに来てTさんは、事の重大さを理解したようでした。
裁判に発展
Tさんも、弁護士に相談することにしました。
弁護士は、契約書や、買主からの内容証明などの資料を見ながらTさんに、退去や雨漏りのことを知っていたのかと質問してきました。実は知ってたけど、値切られると思ったので言わなかったと正直に言いました。弁護士からは、それだと契約不適合責任免責で逃げ切るのは難しいと言われました。
とはいえ、買主が請求する2500万円などとても支払うことが出来ません。それまでのリフォームなどで不動産で得たキャッシュフローは底を付き、売却益も2500万円払えば大幅なマイナスになります。
回答をしないままにしていると、今度は大阪地方裁判所から訴状が届きました。これで逃げることは出来ません。結局、双方の弁護士間で協議し、Tさんは買主に2000万円を支払うことで和解が成立しました。弁護士費用や税金などを払うと、完全な赤字となりました。
もし売却時にきちんと対応していれば、ここまでこじれなかったし、費用もここまで掛からなかったはずなのにとTさんは後悔しましたが、今更どうすることも出来ません。
まとめ
このように不具合を知っていながら告知をしない場合は、いくら契約書で契約不適合責任免責と記載していても通用しません。
最初から不具合や問題点を列記して仲介会社にきちんと伝えることが、後々のトラブルを避ける唯一の方法です。仲介会社も、きちんと話してくれた方が、トラブルが起きないよう告知の仕方や契約書の文言など工夫することが出来ます。売却する時は、この事を忘れないでください。
弊社でも売却に関する相談を受けつけています。不具合や問題点のある不動産でも、色々対応するノウハウもあります。
是非お気軽にご一報ください