両親や親族から賃貸マンションやアパートなどの収益物件を相続するという方も、最近は増えているのではないでしょうか。
収益物件は家賃収入による不労所得を生み出してくれますが、うまく運用しないと融資の返済額、維持費や税金などで、支出が収入を上回ってしまうこともあります。
相続したアパートや賃貸マンションなどの収益物件を保有するか、売却するか悩むことはとても難しい決断です。
そこでこの記事では、相続した収益物件を保有していく場合と売却する場合の、それぞれのメリット・デメリットを解説していきます。
相続した収益物件の運用でお悩みの方は、是非この記事を参考にしてご自身の方針を決定してください。


収益物件(賃貸マンション・アパートなど)を保有するメリット
まず、収益物件を保有するメリットとしては主に以下のようなものがあります。
・長期的な収入源になる
・資産価値の上昇で将来高い収益を得ることができる
・税金の優遇措置を受けられる
・相続人への資産継承ができる
・インフレ対策になる
・土地や建物を多様な方法で活用することができる
それでは、具体的な内容を見ていきましょう。
長期的な収入源になる
収益物件(賃貸マンション・アパートなど)を長期保有する最大のメリットは、給与や年金以外の長期的な収入源になることです。
相続した収益物件をうまく満室経営できれば、仕事や年金以外の収入源ができますし、大きな労力をかけずに定期的な収入を受け取ることが可能です。
安定したキャッシュフローは生活の余裕を生み、あなたの人生を豊かなものにしてくれることでしょう。

資産価値の上昇で将来高い収益を得ることができる
不動産は建物の価値は基本的には下がっていきますが、土地の価値は下がる場合もありますし上がる場合もあります。特に新しく駅ができたり、また開発により人口が増加しているようなエリアも土地価格は上昇していく傾向があります。そのため、土地の価格の上昇で結果的に収益物件の資産価値が上昇することもあります。
現在保有している不動産を長期保有し続けて将来的に不動産の資産価値が上がれば、売却して大きな利益を得ることができます。
税金の優遇措置を受けられる
不動産を保有していると、いくつかの税制優遇措置があります。
例えば、不動産には建物の場合、減価償却費があるので、こちらを経費として計上することで給与所得と損益通算して総合的な所得の金額を減らし、所得税や住民税として支払う金額を減らすことが可能です。
また、土地だけで不動産を持つより、居住用の建物を建てて運用していると、固定資産税の控除を受けて支払う金額を減らせます。
相続人への資産継承ができる
親から相続した不動産は自分で活用するだけではなく、自分の子供に残してあげたいと感じる方もいるでしょう。都心など、将来的にも十分需要がある場所の不動産であれば長期保有して何十年も収益を生み出してくれます。
親から相続した収益用の不動産は、今の自分の生活を支えるだけではなく、自分の家族や子孫を守ることにもなるのです。

インフレ対策になる
不動産を持っていることでインフレ対策も可能です。
インフレになれば必然的に土地の価格も上がっていきますし、また物価の上昇に比例して家賃を上げることができます。貯金をしておくだけでは資産はほとんど増えませんが、不動産として持っていれば、土地と家賃の二重の上昇効果でインフレにも対応できるのです。
土地や建物を多様な方法で活用することができる
また、相続した不動産は収益を上げるために多様な活用法が考えられます。例えば、自分が自宅以外に一時的に住む場所として活用したり、家のものを置いておく倉庫代わりに使うこともできるでしょう。マンスリーマンションのように短期的な賃貸物件にしたり、インバウンド事情を見込んで民泊施設として活用することも可能です。その場合は、アパートや賃貸マンションとして活用するよりも高い収益を狙えます。
その他にガレージやパーティールームなど趣味用のスペースにしたり、また改装してカフェにするなど、土地や不動産を活用した収益の上げ方は様々なものが考えられます。
時間に余裕のある方や不動産投資に興味のある方は、こういった方法に積極的に取り組むことで、大きな利益を上げることもできます。

保有するデメリット
不動産の長期保有は定期的な家賃収入や資産価値を生み出しますが、上手に活用できないと利益どころか損失が発生してしまうこともあります。
保有することによって生まれるデメリットには以下のようなものが挙げられます。
・管理の手間とコストがかかる
・部屋の空室により収益が生まれない
・将来的に空室になる可能性がある
・災害などの被害で突発的な支出が発生する
・時間と労力の損失
管理の手間とコストがかかる
収益物件で定期的な収入を得るには、きちんと状態を管理しなければいけません。
そのためには、アパートの様子を定期的にチェックしなければいけません。
自分で管理を行うとかなりの手間になりますし、不動産管理会社に管理を委託することもできますが、その場合家賃の5%ほどを支払うのが相場となっています。
また定期的な管理だけではなく、10~15年に一度のタイミングで大規模修繕なども必要となってくるので、その場合の出費はかなり大きいものになってしまいます。
収益物件の運営には、メンテナンスや入居者対応募集など時間的にも金銭的にも大きなコストがかかるのです。

部屋の空室により収益が生まれない
収益物件は、持ってるだけでは当然ながら収入はありません。入居者を募集し貸し出さなければ家賃収入が入ってきません。
しかし、場所によってはなかなか入居者が決まらないこともあります。
空室期間でも固定資産税など税金の支払いがありますし、募集する際にも広告費や仲介手数料が必要です。
不動産の価値の大半は立地ですから、立地次第では不動産は富ではなく負債を生み出す負動産ものとなってしまいます。

将来の空室リスク
収益物件の収益性は、その地域の状況に大きく依存しています。人口が減ったり企業の撤退などで地域の経済が悪化していると、相続した時点では十分に良くても、将来的に賃貸需要が落ちて入居者が集まらなくなり、空室ばかりになってしまう可能性もあります。先を見据えて売却をしたほうが高値で売れるケースもあるのです。
災害などの被害で突発的な支出が発生する
不動産運営には、災害のリスクもあります。
例えば地震や台風などにより、建物が損壊したり水没して人に貸し出せなくなってしまうことも十分に考えられます。大阪でも2018年に台風で大きな被害が起こりました。
火災保険や地震保険で対策ができる場合もありますが、その場合でも保険料は必要となってくるので管理面でのコストに影響してきます。
また全ての被害が保険でまかなえるとも限らないため、常に修繕のための貯金をしておく必要があります。
時間と労力の消費
収益物件を運営するためには、かなり多くの時間や労力がかかります。さらに、その不動産が様々な場所に存在している場合は、色々な場所に行くための時間もかかるので、労力はより大きなものになってくるでしょう。管理のための事務作業も増えていくので、不動産が増えれば増えるほど時間と労力の消費が増加してしまうのです。

売却するメリット
相続した収益物件を長期保有するメリットとデメリットを知ったところで、売却をした方が良いと考えてる人もいるかもしれません。
そこで収益物件を売却をするメリットについて考えてみましょう。
主に売却をすれば以下のようなメリットが考えられます
・まとまった現金を手に入れられる
・管理などの手間が解放される
・市場変動リスクからの解放
・より魅力ある投資商品へ投資先を変えられる
まとまった現金を手に入れられる
収益物件を売却することで、一度に多額の現金を手に入れることが可能です。
その手に入れた現金で例えば老後の生活資金や趣味、学費など様々な使い方をすることができます。
またもちろん使うだけではなく他の投資にお金を回して、より多くの利益を目指すこともできます。
これから先不動産がなかなか値上がりする兆候が見えないというエリアに住んでいる方は、早めに売却した方がいいケースもあるでしょう。

管理などの手間から解放される
先に説明したように、収益物件で定期的な利益を得るためには管理の手間やコストがかかります。クレームや問い合わせが多く、常に修繕をしないと想定以上の費用がかかる場合もありますし、空室がなかなか埋まらないとストレスになることもあるでしょう。
大阪など物件が集中する場所に不動産をまとめて持っている場合は良いですが、遠方の物件などを所有していて管理が難しい場合は、早めに売却することで管理ストレスやコストなどから解放されます。
市場リスクの回避
不動産や建物の価格は基本的には下落します。また、土地価格はエリアの需要によって上下します。日本は今少子高齢化社会による人口の一極集中が進んでおり、東京や大阪以外の都心から離れた地方の不動産の価格がこれから上昇することは、特殊なエリアを除いてはなかなかないことでしょう。
そのような値下がりが起こる前に早めの売却を行うことで市場の変動リスクを回避して、まとまった資金を手に入れることが可能です。
より魅力ある投資商品へ投資先を変えられる
不動産を売却して現金に変えれば、」より魅力ある投資対象へ転換することが可能です。不動産投資による収入はインカムゲインに該当するので、コツコツとまとまった収入を得るのには向いていますが、一度に大きな資金を得るのには向いていません。
例えば、これから先大きな値上がりが見込まれる株の銘柄などがもしあったら、不動産を売却して資金をそういった投資先に替えることで、大きな利益を狙えます。
様々な金融商品やよりタイムリーな投資商品に資金を回すことで、投資による収益を最大化することができるのです。


収益物件(一棟賃貸マンション・アパートなど)を売却するデメリット
不動産の売却にはメリットと同時にデメリットも存在します。次はデメリットを見ていきましょう。
デメリットには以下のようなものが挙げられます。
・将来の収入喪失
・税金の問題
・再投資のリスク
・感情的な喪失感
・市場変動による売却タイミングの難しさ
将来の収入喪失
相場を知らずに収益物件を売却してしまうと、将来的な収入機会を喪失することにつながります。
日本は人口が減ってると言っても、インフレによる物価の上昇もありますし、また、東京そして大阪、名古屋など中心都市などは人口が増えているため不動産価格は上昇しています。そのようなエリアに不動産を持っている場合は、将来的な値上がりも見込まれるので、早めに売却することは安値で売ってしまうことになるのです。
資産価値が上がってから売却する方が、良いケースも多々あります。
税金の問題
不動産を売却すると、譲渡所得税という売却した利益に対する税金が発生します。この譲渡所得税は、5年以上保有している不動産でも売却益の20%を支払わなくてはいけないため、大きな利益を見込んで不動産を売ったのに税金で多く持っていかれて利益が減ってしまったということもあります。
また、不動産の税金は相続時の評価額によって相続税が決められるので、相続税評価額が高いのに安値でしか売れなかった場合は、売却で得たお金よりも多額の相続税を請求される可能性もあります。
適正価格で売ることができる自信がない場合は、大きな利益どころか損失になってしまうこともあるのです。

再投資のリスク
収益物件で順当に利益が出ているのに、株やFXなど大きな利益を狙いたいから売却する方もいます。投資に自信のある方ならばそれでも良いのですが、大きな利益を狙うことができる投資は相場の変動、いわゆるボラティリティが高く、利益を目指すどころか損失が出てしまうことも多々あります。
自分があまり経験や知識のない投資に資金を投入すると、せっかくの不動産の売却益や収益を失ってしまい、最終的には多額の資産を失ってしまう可能性もあるのです。
感情的な喪失感
不動産の売却は、金銭的なリスクだけではありません。
相続した家を売ることは、昔子供時代に自分が過ごしてきた場所を売ることにつながる場合もあります。また親が苦労して建てたアパートには思い出があり、抵抗がある方もいるのではないでしょうか。
そうした感情的な喪失感ということも、決して無視できるものではありません。たとえ利益が出なくても、元々住んでいた実家は残しておきたいという人も多くいらっしゃいます。
経済的にそこまで困っていないのであれば、あえて家を残しておくという選択もあります。
市場変動による売却タイミングの難しさ
不動産は需要があれば値段が上がっていくとお伝えしましたが、その売却タイミングを見極めるのはプロでもなかなか難しいものです。不動産の価格は需要だけではなく海外の経済動向、為替相場などの市況も影響してきます。市況が一気に悪化すれば、不動産価格も影響を受けて価格が下がっていきます。
過去にリーマンショックで、一気に不動産価格が下がったこともありました。
相場が上昇に転じるタイミングを、見極めることは非常に難しいものです。
売却タイミングがわからないという方は、急いで売らずにそのままアパートなどを残しておいて家賃収入を得ていく方が良いかもしれません。


まとめ
収益物件(一棟賃貸マンション・アパートなど)を保有していくのか、それとも売却するかはそれぞれ個人の方の状況や将来の目的によって変わってきます。
例えば定年退職をするので年金以外の収益源を確保したいという人は、不動産を残して家賃を得た方がいいケースもあります。特に株式投資やFX投資など日々の売買が必要な投資は、定期的な利益を得ることは難しいので、不動産投資の方が安定した収入源になってくれます。
そういったご自身の状況や投資に回せる余剰資金などを判断した上で、自分にとって最適な不動産の運用を考えてみてください。

相続したアパートは保有するべきか売るべきかQ&A
Q1.
収益物件を“持ち続ける”最大のメリットは何ですか?
A.
最大の魅力は長期安定キャッシュフローです。満室経営ができれば、給与や年金とは別のストック型収入が半永久的に入ってきます。
加えて 、
①地価上昇によるキャピタルゲイン
②減価償却や住宅用地の課税軽減など税制優遇
③子や孫へ現物資産を引き継げる
④インフレが進んでも家賃も土地価格も上がりやすい実物ヘッジ
⑤民泊・ガレージ・カフェなど多用途に転換できる運用の柔軟性
――といった“5大メリット”が重層的に働きます。
Q2.
「保有し続けると痛い目を見る」主なリスクは?
A.
不動産投資の厄介さは“収入が止まっても支出は止まらない”点です。
具体的には、
1.管理コストの固定化
管理委託料だけで家賃の約5%、さらに10~15年ごとの大規模修繕で数百万円単位が飛ぶ
2.空室リスク
広告費・仲介手数料を投じても決まらなければ固定資産税だけが出ていく
3.地域衰退リスク
人口減少や企業撤退で需要が蒸発する恐れ
4.災害・突発事故
地震・台風で損壊すれば保険や貯金で修繕負担
5.時間と精神的コスト
クレーム対応・入退去立会いで日常が侵食される
「大家稼業」は見えない“手間と追加投資”を織り込まないと簡単に赤字化します。
Q3.
売却に踏み切った場合、得られるメリットは?
A.
もっとも分かりやすいのは、一括でまとまった現金が手に入ること。
これにより、
1.老後資金や子どもの教育費を一気に確保できる
2.不動産管理のストレスから解放され、心身のリソースを本業や趣味に再投資できる
3.不動産市況の下落局面を回避し、値下がりリスクを「切り捨て」られる
4.株式・投資信託・事業への出資など、より流動性や成長期待の高いアセットへポートフォリオ再編が可能になる
5.キャッシュポジションを厚くした上で、市場環境に応じた機動的な資産運用へ舵を切れる点が大きな魅力です。
Q4.
売却にはどんな“落とし穴”があるのでしょう?
A.
売却のデメリットは次の通り。
1.家賃という将来の不労所得を永久に失う
2.譲渡所得税や相続評価との乖離で税負担が膨らむ
3.次の投資で失敗すれば資産を一気に減らすリスク
4.思い出の詰まった物件を手放す感情的喪失感
5.景気ショック直後など“売り時”を誤れば安値処分になりかねない
これら5つが代表格です。特に税金と再投資リスクは数字で試算・シミュレーションしておかないと「売って損した」という事態になりがちです。
Q5.
最終判断の指針は? “残す/売る”をどう線引きすれば良い?
A.
次の4ステップでスクリーニングすると失敗が少なくなります。
1.キャッシュフロー診断
修繕積立・保険料・空室率を織り込んだ実質利回りが、株式インデックスやREITを上回るか?
2.エリア将来性チェック
人口動態、再開発計画、交通インフラの整備予定を見て10年後も需要が維持できるか?
3.ライフプラン適合性
家族構成や定年後の生活費に対し「長期収入」と「一括現金」のどちらが有効か?
4.リスク許容度と時間資源:
管理ストレスを抱え続けられるか、他事業に集中した方が機会損失を減らせるか?
この4項目で“◎”が多ければ保有、“×”が多ければ売却を検討するのが現実的です。
