所有されている一棟賃貸マンションやアパートを売ろうと思った時に、最初に何をしますか?多くの方は、不動産会社にいくらで売れるのかを問い合わせるのではないでしょうか?中には勢いで、一括査定サイトなどに登録する方もおられるかもしれません。
しかし、ちょっと待ってください。
確かに不動産会社に査定を依頼すれば、価格が出てきます。しかし、あなたはその査定価格が適切なものかどうかは分かりません。もしかして、安く買い叩こうとされているのかもしれません。
反対に、媒介契約を取るためにとりあえず売れるはずのない高い価格を付けて、専任媒介契約を取りに来ているのかもしれません。
もちろん、あなたは不動産のプロではありませんので、プロの宅建業者と同じようには行かないと思います。しかし、ある程度の目処を立てて不動産会社と交渉するのと、何もせずに交渉するのとではその結果に大きな違いが出るかもしれません。
そこで、収益不動産の売却を成功に導くための下準備のポイントを解説します。
ポータルサイトでの相場調査のススメ
相場を知らずに売却して後悔
まずは、相場調査について説明します。不動産会社に売却査定依頼をする前に、おおよその相場を把握することは非常に重要です。例えば、こういう事がありました。
大阪市鶴見区にお住まいのKさんは、大阪市城東区に親から相続した賃貸マンションを保有していました。賃貸経営に興味がなかったので、職場の近くにあるテレビCMをやってる大手の不動産会社に売却を依頼しました。2ヶ月ほどで売却は無事完了、Kさんは良い取引ができたと大満足でした。
ところが、しばらくして息子から連絡がありました。
「これ、お父さんのマンションじゃないの?」
LINEで送られてきたリンクをクリックすると、自分が売ったマンションが売却価格より3000万円も高く売り出されていました。その時にKさんは、相場より安く売ってしまったことに気が付きました。後悔してもあとの祭りです。双方が合意した金額なので、契約が終わればもう取り消せません。あの時にもう少し調べておけば良かったと、後悔するばかりです。
不動産会社からの査定を受け取った時に、自分の物件の価格が適正な評価をされているのか判断するために自分の物件の価値を把握しておきましょう。
ポータルサイトで所有物件の近くにある物件を探す
まず行うのは、ポータルサイトを活用した相場調査です。
不動産のポータルサイトといえば、SUUMO、HOME’S、アットホームなどが有名です。しかし、一棟賃貸マンション・アパートの場合はそれを専門にしているポータルサイトがいくつかあります。
その中で、代表的なものは次の2つです。
この2つを使って、相場を調べる方法をお伝えします。
まずは、物件種別とエリアの絞り込みです。
物件種別は一棟マンション、アパート、店舗などの物件の種類のことです。よくアパートとマンションの違いを聞かれますが、法律上の区別はありません。一般的には、構造で区別します。木造、軽量鉄骨造の共同住宅をアパート、鉄骨造、鉄筋コンクリート造の共同住宅をマンションと言うのが一般的です。また1~2階建ての共同住宅をアパート、3階建て以上の共同住宅をマンションという会社もあります。ご自身が所有されている物件の種別は何なのかを、選択してください。
次に、自分の所有している物件の市町村をピックアップします。
同じ市町村に幾つも物件が、登録されていると思います。もし登録されていなかったら、隣接する市町村で検索してください。
そして、登録されている物件の中から、自分の物件の近い場所にある築年数が同じくらいの物件が、利回り何%で売りに出てるのかをメモしてください。それと自分の物件と比較するのです。
自分の物件の利回りを計算するのは、簡単です。
毎月の家賃収入に12をかけると、年間の家賃収入が出てきます。これを利回り10%なら、年間家賃収入を0.1で割ると利回り10%で売る時の価格が出てきます。利回り8%なら年間家賃収入を0.08で割れば、利回り8%で売るときの価格が出ます。
掲載価格で売れるワケではない
よくこのやり方で近隣にある売り物件の情報を見て、「うちの物件は利回り⚪︎%で売れるはず」とおっしゃる方がいます。しかし、この考えは少し間違っています。不動産投資家たちは、良い物件を探し回っています。良い物件があれば、取り合いになってすぐに売れてしまいます。
全てではありませんが、不動産業者は売れない物件をポータルサイトに掲載する傾向があります。つまり、掲載されている利回りでは売れないということを認識する必要があるのです。
では、どれくらい乖離してるのかというと、一概には言えませんがざっと2%くらいの差を見ておけば良いのではないでしょうか。利回り7%で売りに出てるから、実際に成約できるのは9%くらいかな?みたいな感じです。また、築年数などによって売れる利回りは、大きく変わってきます。自分の物件より築年数が10年新しい物件なら、さらに利回りは2〜3%くらい変わってきます。
ここで注意することは、人は自分に都合の良い数字を信じる傾向にあるということです。いくつも物件が載っている中で一番利回りの低い物件を見つけ、うちの物件もこれくらいの利回りで売れるのではないかと考えてしまいがちです。そうなると実際に売れる価格との乖離が大きくなり、その価格で売り出しても売れるわけありませんし、不動産会社の査定価格を見てがっかりするようになります。
まずは、少々厳しめの価格で見ておいた方が良いでしょう。
土地の相場の調べ方
まさかの査定額にびっくり
よく「この辺りの土地の相場は坪あたり⚪︎⚪︎万円くらいだ」とおっしゃる方がいます。
しかし、この数字は本当に正しいのでしょうか?
京都府宇治市にお住まいのHさんは、京都府城陽市にアパートを持っていました。Hさんは2人の息子がいましたが、2人とも就職で東京に出ていきアパートを相続したくないと言われました。それならば元気なうちに売っておこうと思い、不動産会社に相談しました。
ところが、査定価格を見てびっくりしました。査定額が思っていた価格と比べて、あまりにも安かったからです。理由を聞いて、さらに驚きです。土地の価格が、自分の思っていた価格の半分以下だったのです。Hさんは騙されてるのではないかと思っていたら、不動産会社の人に聞かれました。
「その土地の価格って、誰に教えられましたか?」
だいぶ前に、町内会の飲み会で不動産の話になった時に誰かが、「この辺りの相場は坪⚪︎⚪︎円くらいや」と言ってた数字をそのまま信じていただけでした。確か、バブルの頃にどこかの不動産業者がそれくらいの価格で買いに来たのだとか。当然、実際の価格を反映していません。
このような根拠のない思い込みをされている方は、非常に多いです。
そうならないように、土地の相場価格の調べ方をお伝えしたいと思います。
全国地価マップで調べる
収益不動産の価格査定を行う時に一般的に用いられるのは、「相続税路線価」です。これは、相続税を計算するときの根拠となる数値で毎年更新されています。次のサイトから調べることができます。
このサイトのトップページから、「相続税路線価」を選択します。ここに自分の物件の住所を入れたら、前の道路が出てきます。そこに表示されている価格が、相続税路線価です。
ここで注意してほしいのが、この路線価は平米単価だということです。土地の価格は、一般的に坪いくらという言い方をしますので坪単価に直してください。
1坪は3.306㎡なので、路線価に3.306を掛けたら1坪の単価が出ます。
銀行などが土地の評価額を出すときは、この相続税路線価で算出するところが多いようです。そのため不動産投資家が物件を購入するときは、この相続税路線価を意識して価格交渉をしてくることが多いです。
おそらくこの方法で計算すると想像しているより低い金額しか出てこず、がっかりした人が多いのではないでしょうか?しかし、ここで失望する必要がありません。
もう一つ、土地の相場価格を調べる方法があります。
ポータルサイトで調べる
SUUMO、HOME’S、アットホームなどのポータルサイトを使う方法です。
ここで物件の種別から土地を選択して物件のある市町村を選びます。市町村の下の町名まで絞り込みができるので出来ればそこまで絞り込みましょう。同じ町内にない場合は、隣接した町名で調べます。そうすると、同じ町内で売り出されている土地の価格がわかります。
この坪単価に自分の物件の土地面積を掛ければ、概ねの価格を算出することができます。
ポータルサイトの載っている土地の価格を見るときに気をつける点は、「上物有り(古家あり)」と「更地」があることです。ポータルサイトに載っている坪単価を自分の物件に当てはめて、その価格で売れると思われている方も多いですが、それは少し違います。
土地の相場価格は、基本的に「更地価格」です。
古いアパートが建ってる場合は、入居者に退去してもらう費用、建物を解体する費用、測量や土壌汚染調査などの費用、そして販売する業者の利益を引いた金額が実際に売れる金額です。一概には言えませんが、上物付きの土地の場合、実際に成約できる金額は相場価格の半額くらいになることが多いようです。
建物が古く空室の多い物件は、相続税路線価で計算するか、ポータル価格に載っている相場価格の半額で売るのかどちらが得かを考えて販売するのが良いでしょう。
賃貸マンション・アパート売却、成功への第一歩は
最初のポータルサイトに掲載される物件の利回りから価格を出す方法、2番目の土地値を出す方法、両方計算すると価格が大きく違うケースも出てきます。
そのどちらが正しいのか、どちらを参考にすれば良いのでしょうか?
比較的新しい入居率が良い物件をお持ちの場合は、利回りを基準に計算した方が良いでしょう。反対に築年数が古く、入居率の低いアパートなどは土地値から逆算して考えるのが良いと思います。
いずれにせよ、下調べをしてから不動産会社に相談をするのと、いきなり相談するのとでは大きな違いが出る可能性があります。
是非、売りに出す前にご自身で試算してみてください。
皆様の成功をお祈りしています。