不動産、特に一棟賃貸マンション・アパートといった投資用の収益物件を売却するときには、できるだけ高い値段で売りたいものですよね。特に安い方向に間違った値付けをして売り出すと速く売れるというメリットはあるものの、せっかく得られる利益が減って次の物件購入にマイナスになる可能性もあります。
そこで収益物件の価格をつけるときに参考になる、不動産の積算評価について、今回はお伝えしていきます。
収益物件売却時に積算評価を知っておかなければならない理由は?
積算評価とは、土地と建物を再び購入または建設した場合にかかる費用を算出し、そこから設備などの経年劣化分を差し引いて、現在の価値(積算価格)を求める方法です。主に金融機関が一棟賃貸マンション・アパートといった収益物件の価値を評価する際に利用され、原価法とも呼ばれています。
また、収益還元評価や取引事例比較評価という評価方法もあります。収益還元評価は将来の収益見込みをもとにして価値を算出する評価方法で、取引事例比較評価は近隣の取引事例をもとに評価額を算出する方法です。
金融機関は、借主がローンの返済に支障をきたした場合、担保として設定された一棟賃貸マンション・アパートなどの不動産を売却して資金を回収することになるため、現在の価値を示す積算評価にもとづいて不動産の価値を算定します。収益還元評価なども参考にしますが、最も重要視されるのは積算評価と言われています。
一棟賃貸マンション・アパートといった収益不動産を売却する際、積算評価を把握しておくことは重要です。積算評価を理解していると、安すぎる査定を見抜くことができ、損失のリスクを軽減できます。また、相場よりも高すぎる価格での売却を回避でき、機会損失を防ぐことも可能です。
以下では、売却時に積算評価を知っておくべき理由について、詳しく見ていきましょう。
極端に安い査定を出されて損をするリスクを避ける
収益物件の積算評価を理解することで、不動産の客観的な評価額を把握できるため、極端に安い査定額を提示されて損をするリスクを回避できます。
例えば、一棟賃貸マンション・アパートなど売却不動産の積算価格が3,000万円だとすると、不動産会社から2,000万円の査定額が提示された場合、「査定額が明らかに低すぎる」と判断できます。
積算価格を知らずに査定額を受け入れてしまうと、本来の売却価格よりも安い価格で取引してしまい、数百万から数千万円もの利益が失われる可能性があるため、注意が必要です。
また、故意に低すぎる査定額を提示する悪質な不動産会社を避けることが可能です。悪質な不動産会社に関わると、極端に低い価格で売却するだけでなく、トラブルに巻き込まれるリスクもあります。
収益物件の積算評価を知っていれば、不動産に対する客観的な評価が可能となり、適正な価格での売却を実現できます。
逆に期待を持ちすぎて売れるはずのない価格での売り出しを避ける
積算評価によって極端に安い査定額を回避できるだけでなく、高すぎる価格設定による売却タイミングの逸失も防ぐことができます。
例えば、積算価格が3,000万円なのに、それを6,000万円で売り出した場合、買い手が見つからない可能性が高くなります。
売れない期間が長引くと、その間に発生する維持管理コスト(光熱費、管理費、固定資産税など)も負担しなければなりません。
さらに、長期間売れ残ると「売れ残り物件」というイメージを持たれてしまい、売却の可能性がさらに低下します。
誰もができるだけ高く売却したいと考えますが、売買は需要と供給のバランスを考慮する必要があるため、適正価格で売り出さないと売却が難しくなる可能性があります。
積算評価を理解し、高すぎる価格での売却を回避できることで、取引が早期に成立し、余計な維持管理コストの発生を防ぐことが可能です。
土地の評価の出し方
土地の評価額は、以下の計算式で算出できます。
・路線価×土地面積=土地の評価額
路線価には、「公示地価」「基準地価」「路線価」のいずれかの価格を使用します。
収益物件の場合は、相続税路線価を使用して計算するケースが多いようです。
それぞれの価格の詳細は、以下のとおりです。
公示地価 | 基準地価 | 路線価(相続税路線価、固定資産税路線価) | |
調査主体 | 国土交通省 土地鑑定委員会 | 都道府県 | 国税庁 |
基準日 | 毎年1月1日時点 | 毎年7月1日時点 | 毎年1月1日時点 |
公開時期 | 毎年3月下旬 | 毎年9月下旬 | 毎年7月1日 |
調査地点 | 標準地(全国約2万3000ヶ所)1㎡あたりの価格 | 基準地(全国約2万1,000ヶ所)1㎡あたりの価格 | 路線に面した土地1㎡あたりの価格 |
調査方法 | 2名以上の不動産鑑定士による評価 | 1名以上の不動産鑑定士による評価 | 公示地価や不動産鑑定士による評価を総合的に判断 |
活用方法 | 土地売買の目安 | 土地売買の目安 | 相続税や贈与税を算定する際の基準 |
調べ方 | 国土交通省の「不動産情報ライブラリ(旧土地総合情報システム)」 | 国土交通省の「不動産情報ライブラリ(旧土地総合情報システム)」 | 相続税評価は国税庁の「財産評価基準書」、固定資産税路線価は一般財団法人資産評価システム研究センター「全国地価マップ」 |
基準地価は、公示地価の価格に大きな違いはありません。相続税路線価は公示地価の80%程度であり、固定資産税路線価は公示地価の70%程度です。
例えば、土地の面積が110㎡で、路線価が20万円/㎡の場合、土地の評価額は「110㎡×20万円/㎡=2,200万円」となります。
なお、土地の形状によって積算評価が変動することがあるため注意が必要です。例えば、人気の高い角地の場合は評価が1割程度高くなる一方で、旗竿地は評価が3割程度低くなる場合もあります。
また、不動産の積算価格は、土地の評価額に建物の評価額を加えて求めます。
建物の評価の出し方
建物の評価額は、以下の計算式で算出できます。
・再調達価格×延床面積×(残耐用年数÷法定耐用年数)=建物の評価額
「再調達価格」とは、同一の建物を再度建築する際に必要な費用を指します。建物の構造に応じて単価が設定されます。一般的な単価は以下のとおりです。
建物の構造 | 単価 |
鉄筋コンクリート(RC)造 | 20万円/㎡ |
重量鉄骨造 | 18万円/㎡ |
軽量鉄骨造 | 15万円/㎡ |
木造 | 5万円/㎡ |
「耐用年数」とは、法令で定められた資産の減価償却が認められる期間のことです。建物の取得費は、法定の耐用年数に応じて分割され、減価償却費(経費)として計上されます。
建物の構造 | 耐用年数 |
鉄筋コンクリート(RC)造 | 47年 |
重量鉄骨造 | 34年 |
軽量鉄骨造 | 19年 ※厚さが3mm以下の場合 |
木造 | 22年 |
例えば、鉄筋コンクリート造の建物で延床面積が100㎡、築年数が7年の場合、建物の評価額は「20万円/㎡×100㎡×(40年÷47年)=約1,702万円」となります。
また、木造の建物で延床面積が80㎡、築年数が10年の場合、「15万円/㎡×80㎡×(12年÷22年)=約654万円」となり、評価額は約654万円です。
建物の評価額を土地の評価額に加えることで、不動産の積算価格を算出できます。土地の評価額が2,200万円で、建物の評価額が1,702万円とした場合、その不動産の積算価格は3,902万円です。
積算評価が実際の相場より高く出る場合の特徴
収益物件の積算評価は、主に金融機関が不動産を査定する際に利用されますが、必ずしも実際の価値と同じとは限りません。
実際の価値よりも積算価格が高いこともあれば、低いこともあります。
例えば、地方の鉄筋コンクリート造の建物は評価が高い傾向にあるため、積算評価が実際の価値よりも高くなる場合があります。また、駅から距離が遠く、幹線道路沿いに位置する建物も同様です。
都心は実際の取引価格が路線価より高い傾向がありますが、地方は取引価格と路線価が近いことも多いです。
土地の広さや路線価、建物の構造や面積、築年数などによって積算評価が変わることを理解しておく必要があります。 収益物件の積算評価が実際の価格よりも高い場合があるため、積算評価が高いからといって、その不動産の価値も高いと誤解しないように注意することが大切です。
都市部の物件は必ずしも積算評価を重視しすぎない
収益物件の積算評価は都市部の物件と地方の物件で差が出やすい場合もあります。先に挙げたように、都市部ほど路線価や相続税評価と実勢価格の差が出やすいからです。
また集客力に関しても、過疎化が避けられない地方と人口が集中している都心部では大きな差が出るでしょう。そのため、都心部の物件は積算評価で不動産の値付けを決めるより、実際の収益力から不動産の価値を算定する、収益還元法で売却価格を逆算して決めたほうが良いケースもあります。
国土交通省の「不動産情報ライブラリ」(https://www.reinfolib.mlit.go.jp/)では実際の土地売買の履歴を確認できます。
都市部の物件を売却するときにはこのようなサイトも参考にして、不動産の価値を測ると良いかもしれません。
まとめ
収益物件の価値は様々な要素が絡み合って決まります。積算評価を知っておくことで相場に即した価格をつけることができますが、積算評価が全てというわけでもありません。
実際の売買事例や売りに出ている物件もチェックしながら、また経験豊富な不動産会社にご相談も合わせてご検討ください。